夜送り駄文

雑食小説好き系の肥後MAN日記

ものかき 番外編(前編


  透明な絵本の中から 動き始めた物語の行方は
  ハッピーエンドのかけら集めて 続いてゆく
  遠いあなた 思い出して

(「POWER」歌手:『ポケットビスケッツ』より)


前回ブログのちょっとした番外編。


学生生活を卒業し、いよいよをもって社会人となった。読書と創作活動自体はあいかわらず続けてはいたが、惰性で続けている面があり、学生時代のような熱は宿っていなかった。唯一競争相手だったUとも連絡を取れない日々が流れ、急に一人ぼっちになってしまった孤独感を感じていた。


慣れない社会生活ということもあり、仕事は楽しく、そして忙しく、当然のようにきつかった。学生時代とは違ってまんべんなく疲労が蓄積するから仕方ない、と無理に割り切る自分もどこかにいたが、どうしても「ものを書く」という変な趣味だけは切り捨てることができなかった。ただ、頭の中でふっと浮かんだ物語を、キーボードで機械的に打ち込んではみるものの、発表する機会がない作品と自覚があるためか、やはりタイプスピードは以前に増して遅かった(現在もそんなに早くはないのですが)。


創作活動に再び火が灯ることになったは、社会人3年目の時だった。


きっかけは覚えていないが、ふとしたことで中学時代の同級生だったR氏と再会を果たすことになった。中学時代はバスケットや読書などでR氏とは通じていた……と思う(記憶というものは誠に持って曖昧である)。再会当時、R氏は小説の創作する傍ら、廃墟を巡って写真を撮影し、それをウェブ上にアップする活動を続けていた。私も当時、廃れゆくものに対して感傷的になっており(精神的には全然大丈夫でしたが)、R氏が語る廃墟の話題にのめり込む形になった。それからは度々県内の廃墟スポットをR氏から紹介をされ、休日の予定を合わせては足を運ぶ活動がしばらく続いた。


そして再会を果たし数ヶ月後のことだっただろうか。町内の居酒屋で楽しく2人で飲んでいたところ、R氏が知人の方と連携し、県内某所にある廃校となった学校を借り、そこの各教室でイベント(展示物や創作発表)を催す計画を立てていることを聞かされた。廃墟ばかりを探索していると思っていたR氏がイベント事を計画していることには驚かれたし、それに伴い同調者(協力者)がいる点でも意外だった。


話が盛り上がる中、R氏がカシスオレンジ(確かカシスオレンジだったと記憶している)を一口飲みながら、こう私に切り出した。



「学校内に図書館もあるんだけど、もしよかったらそこで作品を展示してみない?」



言葉にして5秒にも満たない短い切り出しだった。それでも、自分の中で冷え固まっていた創作意欲がぐっと熱くなるのを確かに感じた。

続く。